【萌研アーカイブ】美少女絶滅都市と電波少女

本記事はコミティア146で頒布された『Archetype vol.2』に掲載した記事のアーカイブです。

illustration by 街角の恋

ここは大阪日本橋。

日本で二番目のオタク街。

メインストリートはオタロードなる大層な名前を付けられてはいるものの、アキバほどじゃない。

大きなソシャゲ広告がある訳でもなく、ランドマークになるような建物もない。どうしても観光地としてはアキバには負けてしまう。

でも、日本橋にあってアキバにないものがある。

何を隠そう「K-BOOKS」の看板だ。K-BOOKSっていうのは、オタクグッズの中古販売をしているお店で、店内には所狭しとアニメグッズが並んでいる。まあオタク街には良くあるお店だ。(駿〇屋みたいな、と言ったら想像しやすいかもね)

オタロードの真ん中、無線機器販売店と電化製品販売店に挟まれるようにK-BOOKSの看板は置かれている。

美少女が一人佇む。看板のインクは褪せて、今にも消えそうなぐらい掠れているし、K-BOOKSが入っているビルも聞く話によれば、この看板はKBOOKSの開店した2004年に設置されたらしい。

彼女の名前は瑠久。愛称:瑠久たん。K-BOOKS秋葉原本館のマスコットキャラクター。

2000年代はまさに「萌え」ブームの真っ只中で、沢山の美少女が企業のマスコットとして生み出されたらしい。

彼女もそんな萌えキャラ戦国時代に生まれ落ちた一人だ。もちろん、瑠久たんの他にも萌えブームに登場した〝看板少女〟がいる。メロブのめろんちゃん、らしんばんのらんらん、カードラボのららみ&ぼたんとか。皆大好きでじこだって、ゲマズ(ゲーマーズ)のキャラだ。

今も彼女たちが大きく描かれた看板が日本橋のあちこちに掲げられているんだけど、それもやっぱり瑠久たんと同じように、老朽化して色褪せていて、今にも消えそうな看板もある。

そうやって風化してしまった看板を見て僕らは、あたかもそのキャラクターが風化してしまったように思う。彼女たちは、もう輝きを失ってしまったんだと。でも、それは全くの勘違いだ。

たとえ、店が無くなっても彼女たちはきっと変わらない。美少女の根源的なキャラクターは決して劣化せず、古くても、マイナーで誰も知らなくても、彼女たちは星のように輝いているんだ。

 「美少女は、永久に、不滅だ!!!」

なんて痛い台詞を声高に叫ぶオタクを嗤うことなく、瑠久たんは今日も、日本橋の一番高い場所から見守ってくれている。

彼女を見上げながらふと思った。瑠久たんはいつまであそこにいてくれるのだろうか。あのまま掠れて消えてしまうのか、それともその前に撤去されてしまうのか。

どちらにせよ、きっとあと数年で彼女は消えてしまうだろう。やっぱりそれは凄く寂しい。僕らが寂しいのはもちろんそうだけど、瑠久たんも寂しいんじゃないだろうか。

と、さっき会ったばかりの二次元美少女の気持ちを考えてしまう。

「当然寂しいの。」

ドラゴンクエストのラッピングが施された日本橋名物のローソンで、ホットコーヒーを買う。出入店時に、ダッダッダと階段を降りる音が鳴るというこだわりっぷり。最初は皆驚く。僕はもう慣れた。

ダッダッダ

コーヒーを飲みながらオタロードを上る。目に入ってくるカードショップの看板。また最近できたらしい。

看板は部屋みたいだなぁと思うことが良くある。渋谷にある立体視の看板なんてまさに部屋だ。

ねこがいるやつ。あんな感じで、なんだか美少女が看板の中に住んでるように見えてくる。ハ〇ポタに出てくる絵みたいなのって言ったら通じやすいかな。

そう考えると、看板の彼女は「電気屋さん」の看板でいっぱいだった電気街に引っ越してきた僕らの〝お隣さん〟ってことになる。高度経済成長期に都市に移住した僕のご先祖みたいに、高度オタク成長期に彼女たちは移住してきた。

それから15年も住んでるんだから、日本橋のことはなんでも知ってるに違いない。きっとあのちょっとイジワルなトルコアイス屋のおっちゃんとも知り合いだ(イジワルじゃないトルコアイス屋があれば教えて欲しい)。

・・・部屋を追い出された彼女たちはこれからどこに行くんだろう。

「私たちはここに居るの☆」

 街から美少女が消える。

 十数年前、かつての電気街は美少女が住むオタク街となった。

 2023年現在、オタク街から美少女が去ろうとしている。街中にはコンセプトカフェとカードショップが増えて、二次元美少女のいない「カタチ」だけのオタク街が残る。

 

〝美少女絶滅都市日本橋〟――

 

 あの娘は、一体、どこに行ったんだろうか――

「だから、ここだってば!☆」

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ほしが見えた。いや、星空的な星じゃなくて、もっとなんというか、表象的な?絵文字的な☆が見えた。そう、電波ゆんゆんな、『らき☆すた』的な、『ジュエルペットてぃんくる☆』てきな☆。

「こっちこっち☆」

 その声の主は、路地裏、およそ二度と開くことの無いだろう電機屋の小さな軒下で、ムスッとつまらなさそうに佇んでいた。

「やっと気付いたの、さっきから呼んでるのに、返事もしないで看板をずっと見つめてるの☆」

変な髪型で変な喋り方の女の子が、

「変じゃないの『萌え』なの☆全くさいきんのおたくは萌えがわかってないの!」

語尾に星を煌めかせながら主張した。

 全くその通りだ。というか僕声出してないんだけど、心の声が――

「きこえてるの」

「きるかにはわかるの☆きるかは電波っ娘だから、しゅーはすーがあえばどんな声でもきこえるの」

「さっきも看板みながらずっとかんがえごとしてたでしょ」

電波ゆんゆんな返事に動揺し、声も出ない僕を尻目に彼女は続けた。

「あたしはきるか!切川無線の看板娘きるかたんなの☆」

「切川無線?看板娘?」

 どうでもいいが、いや一部の人間には深刻な問題だが、きるかたんは娘というには幼く、どちらかというと「看板少女」の方がしっくりくる体つきをしている。なんというか、色々と〝小さい〟。

「ちびじゃない!きるかだってもう少しでお姉さんなの、その頃にはもっとおっきくなるの。きるかにはわかるの・・・☆バカにしてられるのもいまだけなの!」

 小さな口を膨らませながら短い腕をぶんぶんと振り回すきるかたん。萌え……

 ――路地に佇む二次元美少女と、一人のオタク。きっと周りからは風変わりなコンカフェ店員とその客にみえていることだろう。

 少ししてから、きるかは空を見上げてこう呟いた。

「この街も変わったの」

「街に溢れる声が、少しずつ変わっていったの」

そうか。

「きるかはずっとここにいるんだね」

「当たり前なの、ここは私の街なの☆」

彼女は、

「でも、もうきるかのお店は。」

ずっと見てきたんだ。

「きるかには、わかるの。」

「それでもまだここにいるんだね。」

変わっていくこの街を。消えていく看板少女たちを。

「そう、きるかはまだここにいるの☆」

「びしょーじょは、永久にふめつなの☆」

瞬間――

語尾に星を煌めかせながら、彼女の口が「びしょーじょ」のカタチをえがいた瞬間――

彼女の目は輝きを放ち始めた――

午後7時。日は落ちている。

暗がりを照らすように、きるかの目の輝きは路地中に広がり、そして光は実体をもって何かを形作り始める。

朧気に、輪郭が見える。 

「わたしたちは、ふめつなの☆!」

☆はさらに輝きを増し、一次元的な光の粒が集まって、実線となり、僕に微笑みかける。そして大きな目で僕を見つめた。

「ここに、いるの・・・・・☆」

「だから・・・」

彼女たちの手を取ろうと、手を伸ばす。

触れようとしたその瞬間、光は霧散し、彼女たちはまた見えなくなった。

「ねえきるか、あのコたちは」

振り返ると、変な髪型の少女はいなくなっていた。

ただ、ほしが綺麗だった。

汚れた都会の空気でも見えるぐらい、あの娘が飛ばした☆が煌めいていた――

オタロードを下り、左に曲がる。それから真っ直ぐ進んで、アイドルマスターの看板が出てきたらもうそろそろ夢はおしまい。

 空を見上げながら考える。

看板の彼女たちは、きっと近い将来居なくなってしまうだろう。15年住んだ部屋を離れて、どこかに行ってしまう。そして空き部屋となった看板には、「広告募集」の広告が大きく掲げられる……でも、彼女たちは消えていない。見えなくなっただけだ。だってこの文章を読んでいる君は、もうきるかのことを知ってるでしょ?

きるかが僕を見つけたみたいに、今度は僕らが探しにいこう。まだ街には、ネットには萌えキャラが沢山いる。僕らが思うよりも萌えはしぶといんだ、僕らの方が先に消えちゃうかもしれない。

・・・そういえば、あのシャッターの降りた電器屋が切川無線だったのか、そもそも無線屋だったのか、確認するのを忘れてしまった。

まあ、また今度日本橋に来たときに寄ろう。今度はきるかを見つけに。

看板少女が街から消えて、電波少女が振り返る。

ここは日本橋。

日本で二番目のオタク街。

美少女が住む、僕らの街。

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どうも萌研主宰のnazcaです。

てなわけで、今回はアーカイブをお届けしました。いつもとノリが違いすぎて困惑する萌研会員諸君の顔が目に浮かびます。ざまあみろ。

……これを書いたのは確か1年半ほど前の秋口だったと思います。まだ、もゆ会長も登場する前で、もちろんこのブログもありませんでした。時が経つのは早いもんですね…… 本文中に出てきたドラクエコラボのコンビニも、つい先週ぐらいに閉店してました。ショック……。こうやって見知った風景が消えていくんだな、と実感している毎日です。

普段はポップで読みやすいブログを目指しているんですが、たまにはこういうエッセイもどきの小説みたいなのを書くのも良いかもしれないですね

最後に一つだけ。日本橋の瑠久たんの話を萌研ブログに流用していることに気づいたあなたはA級萌研会員です。許してください。

と、まあいつもよりも抒情的?おセンチ?なブログでした。皆さん、ぜひ日本橋に来てくださいね♪

あとこの記事が掲載されている『Archetype2』はとっても面白い同人誌ですので、そちらも是非に。イラスト描いてくれた街恋さんもありがとう!

Archetype vol.2【増刷版】 | cumulist https://cosgaso.booth.pm/items/5341241

コメント

  1. いい…

  2. :moyu_smile:

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